腸内細菌の産生物質HYAが脂肪細胞の肥大を抑制
静岡県立大学、神戸大学、Noster株式会社が共同で行った研究が注目を集めています。この研究は、腸内細菌によって生成される代謝物「HYA」(10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid)が、脂肪細胞の肥大を抑える作用を持つことを明らかにしました。これにより、肥満や代謝性疾患の新しい治療法の可能性が示唆されています。
HYAとは?
HYAは、主に腸内に存在する善玉菌「ラクトバチルス属」が、食事から摂取するリノール酸などを代謝して生み出す物質です。これまでの研究では、腸の健康や炎症の抑制に寄与する成分として知られていましたが、今回の研究により、HYAの新たな機能が判明しました。
研究の背景と方法
研究者たちは、高脂肪食を与えられたマウスを使用し、HYAを投与したグループと投与していないグループを比較しました。その結果、HYAを投与されたマウスは、脂肪細胞が小さく、肥大化が抑制されていることが確認されました。この実験により、HYAが直接脂肪細胞に作用し、そのサイズを制御することができる可能性が示唆されました。
さらに、培養した脂肪細胞(3T3-L1細胞)にHYAを加えた実験では、脂肪の蓄積を抑制することが確認され、脂肪合成に関連する遺伝子の働きが減少しました。一方で、脂肪を燃焼する遺伝子については活性化されることがわかりました。これにより、HYAが脂肪の合成を阻害し、脂肪酸の酸化を促進することで脂肪細胞の肥大を抑えるメカニズムが見えてきました。
AMPK活性化の重要性
この研究において、HYAが脂肪細胞内のカルシウム濃度を高め、これがAMPKを活性化させることが確認されました。AMPKは細胞内エネルギーの調整に関与する酵素であり、肥満防止において非常に重要な役割を果たします。HYAの脂肪細胞肥大化抑制作用は、AMPKの活性化に依存していることが明らかになりました。
また、HYAのメカニズムは従来知られていた脂肪酸受容体を介した経路とは異なることも発見され、新たな治療法への希望が広がります。腸内細菌が産生する「ポストバイオティクス」の存在が、脂肪組織の機能にも影響を与えることが示されたのです。
今後の展望
研究の責任者である静岡県立大学の細岡哲也准教授は、「腸内細菌が作る成分が、脂肪組織の働きまで変えるというのは非常に興味深い発見です」と語っています。この成果は、肥満や代謝性疾患の新しい予防や治療法の開発につながる可能性があります。
これからの研究成果に期待が寄せられる中、Noster株式会社は今後も腸内細菌に注目したヘルスケアソリューションの研究・開発を続けていくことでしょう。この新しい発見から、私たちの健康を守るための有効な手段が生まれることを期待したいものです。